この日本語訳をベースにして、理解しやすいように意訳したり、説明を加えたり、関連写真を入れて、動画にしたものがこちらです。
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・講演の概要
今日はお招きいただきありがとうございます。
私や私の仕事について温かい言葉をかけていただき、ありがとうございます。
そして、今日、私の話を聞きに来てくださった皆さんに特に感謝します。
多くの方々が私の話に興味を持ってくださっていることに、いつも身の引き締まる思いです。
さて、今日お話しするのは、中国の台頭とウクライナ危機についてですが、
それらについて、基本的に国際政治学のリアリズムと呼ばれる理論に基づいてお話します。
一見すると、この2つの状況は互いにあまり関係がないと思うかもしれません。
しかし、私はそうは思いません。
これから、私は次のように話を進めたいと思います。
まず、「中国の台頭が何を引き起こすのか」について私の考えを述べたいと思います。
次に、ウクライナ危機の原因とその結果、何が起こるのかについて、私が意見を述べたいと思います。
そして、その次に、この二つの関連性について説明し、
そして、「ウクライナ危機が日本にとっても、アメリカにとっても悪いニュースである」と私が考える理由を説明したいと思います。
今回の講演は、このような形で進めていきます。
・中国の台頭
●攻撃的現実主義の理論によって、「なぜ、中国の台頭が、日本の安全保障を脅かすのか?」を説明する
まず、中国の台頭の話から始めましょう。
私の考えでは、中国は平和的に台頭することはできません。
ここで強調しておきたいのは、中国が今後30年間、過去30年間と同じように目覚ましい成長を続ける可能性が高いと私が思っているということです。
そうなると決まっていると言っているのではありません。
そうなる可能性が高いと私が思っているということです。
そして、これから話を進めていくうちに明らかになると思いますが、私は中国が経済的に目覚ましい成長を続けないことを願っているということです。
しかし、繰り返しになりますが、そうなる可能性が高いと私は思っています。
そして、もし中国が経済成長を続ければ、この地域にとって良い結果は生まれないというのが私の考えです。
なぜなら、そうなった場合、中国と「米国とアジアの同盟国」が、激しい安全保障競争を繰り広げることになるからです。
アジアの同盟国には日本も含まれます。
そして、激しい安全保障競争が起こるだけでなく、ここ東アジアで大規模な戦争が起こる危険性もあります。
なぜ、そのようなことを言うかというと、
国際政治に関する私の基本的な考え方は、「どの国にとっても理想的な状況とは、自国の地域を支配し、他国が自国の地域を支配しないようにすることである」というものです。
自国の地域を支配したい理由は、それが現在のような国際システムの中で生き残るための最善の方法だからです。
●攻撃的現実主義の理論によって、「なぜ、国家は周辺地域を支配しようとするのか?」を説明する
日本や中国、そしてアメリカが活動している現在の国際システムについて考えてみると、
このシステムの特徴は、国家が主要なアクターであり、国家の上に位置する上位の権威が存在しないことであることがすぐに分かります。
このことを、国際政治学の用語では、「この国際システムがアナーキーである」と言います。
国際システムは、「ヒエラルキーの対極にあるという意味で、アナーキーである」ということです。
国家より上位に位置する権威は存在しません。
言い換えれば、この国際システムの中では、国家がトラブルに巻き込まれても、
助けを求めることができる夜警も警察官もいない、ということです。
さらに、このシステムにおいて国家が直面する主な問題のひとつは、他国の意図を知ることができないということです。
2020年に中国が何を考えているのか、2030年に中国が何を考えているのかは分かりません。
2020年や2030年に、日本の首相が誰なのかは分かりません。
したがって、中国や日本、アメリカ、ドイツ、ロシア、その他の国が将来どのような意図を持っているのか、誰にも分からないということになります。
他国の意図は分からないのです。
ということは、すべての国家は、夜警もなく、他国の意図を確かめることもできないシステムの中で動いているということになります。
そこで問題となるのは、自国に対して悪意を持つ本当に強力な国家に遭遇した場合にどうなるかということです。
助けを求めることができる上位の権威がないので、大変困ったことになります。
そのため、国家は互いを恐れるようになるのです。
頼れる権威も、警察官も存在しないので、国家は、「強大な国家がいつか自分たちに迫ってくるのに、助けてくれる人がいないという状況に追い込まれるのではないか?」と心配するようになるのです。
このような国際システムの中にいる場合、生き残るための最善の方法は、「このシステムの中で圧倒的に強力な国家になることだ」とすぐに分かります。
なぜなら、このシステムの中で、最も強力な国家であれば、他のどの国も、弄んだり、攻撃しようとは思わないからです。
このことについて、アメリカ人の前で話をする時は、次のような質問をします。 「”カナダやメキシコやグアテマラが米国を攻撃するのではないか?”と心配しながら、夜寝る人は何人いますか?」と。 しかし、その問いに対して、そのようなことを心配していると答える人は、一人もいません。 そのような心配をしないのは、米国があまりにも強力だからです。 国家は、その地域の中で、最も強い国でありたいと思うのです。 なぜなら、それがこの国際システムの中で生き残る最善の方法だからです。
●大国の動きは、攻撃的現実主義の理論で説明できる
このことについて、アメリカを例にして説明しましょう。
1783年に誕生したアメリカは、大西洋沿岸に広がる13の州で構成されていました。
その後の約70年間で、アメリカは北アメリカ大陸を西進し、膨大な数のネイティブ・アメリカンを殺害して彼らの土地を奪い、メキシコと戦争して現在のアメリカ南西部を奪い、1812年には、その一部をアメリカのものにする目的でカナダに侵略しました。
さらに、「カリブ海のキューバ・ジャマイカ・ハイチをアメリカの一部にしたい」と非常に強く思っていました。
現在、これらの国々が米国の一部でない唯一の理由は、カリブ海諸国のナショナリズムの力が強まったからです。
私が申し上げたいのは、アメリカは、現在北米を支配しているこの強力な国家を創り上げるために懸命に働いたということです。
その目的を達成するために、アメリカ人が実行した外交政策は、 それはモンロー・ドクトリンと呼ばれるものです
1823年にジェームズ・モンロー大統領が、当時アメリカ大陸に植民地を持っていたヨーロッパの大国に対して、次のように言いました。
「我々は今、あなた方を西半球から追い出すほどの力を持っていない。」
「しかし、いずれはあなたたちを追い出し、再び進出してくることは許さないだろう」
これがモンロー・ドクトリンです。
米西戦争後の1900年までに、アメリカは地域覇権国となり、西半球を支配する大国となりました。
我々はその目標を達成するために懸命に働きました。
国際システムで生き残る最善の方法は、地域覇権家になることだからです。
次は、地域覇権国になるというアメリカの第一の目標に続く第二の目標についてです。
その第二の目標とは、西半球以外の地域において、地域覇権国の出現を阻止するということです。
世界の他の地域では、西半球でアメリカが確立したのと同じような覇権を確保している国は存在しませんでした。
20世紀には、アジアやヨーロッパを支配する恐れのある国は4つありました。
その4カ国とは、ドイツ帝国、大日本帝国、ナチスドイツ、そしてソビエト連邦です。
ご存知のように、米国はこれら4カ国を歴史のゴミ箱へと追いやる上で重要な役割を果たしました。
アメリカはライバルの覇権国の出現を許容することができないのです。
米国は、自分たちが唯一の覇権国である世界を望んでいるということです。
国際政治において、最も重要なことは、地域覇権国になることです。
そして、2番目に重要なことは、地球上に他の地域覇権国が存在しないようにすることです。
そして、米国は建国以来、この2つの指針に従って行動してきました。
●中国は、これからどのような行動を取るのか?
このことを考えると、中国は、これからどのような行動を取るのでしょうか?
中国は、もし可能であれば、アメリカの真似をするつもりでしょう。
実は、日本も、1920年代から1940年代にかけて、アメリカと同じことをしようとしました。
日本はアジアで真の最強国であった時に、アメリカが西半球を支配したのと全く同じ方法で、アジアを支配しようとしたのです。
中国はより力を付けるにつれて、二つのことをするつもりでしょう。
一つ目は、
日本より、はるかに強大になるために、あらゆる手段を講じるだろうということです。
インドやロシアよりもはるかに強大になるために、あらゆる手段を講じるだろうということです。
この地域に中国を脅かすような大国が存在しないようにしたいのです。
中国人とこの地域のパワーバランスについて議論すれば、彼らははっきりとこう言うだろう。
「1850年から1950年にかけて、弱かった中国は、「屈辱の世紀」と呼ばれる苦しみを味わった。」
「その時代に戻るつもりはない。」
そして、中国人は、「それを避ける最善の方法は、アジアで圧倒的に強力な国家になることだ」と十分に理解しています。
そうすれば、日本を含むどの国も自分たちを脅かすことはできないからです。
さらに、アメリカが、モンロードクトリンを掲げ、 ヨーロッパの大帝国を西半球から追い出したのと同じように、中国人は、アジアから、アメリカを追い出したと強く思っています。
非公式の場で、中国人と話をすれば、彼らはアメリカ人を第一列島線の外側に追い出し、最終的には第二列島線の外側に追い出すつもりだと言うでしょう。
しかし、私は彼らを非難しようとは少しも思いません。
もし私が北京で国家安全保障を担当していたら、アメリカとまったく同じような外交政策を採用するでしょう。。
私はアメリカ人としてモンロードクトリンという外交政策を支持しています。
つまり、アメリカが西半球を支配するということを支持するということです。
モンロードクトリンを支持するのは、私が生まれつき攻撃的な人間で、そのせいで、「アメリカも攻撃的であるべきだ」と考えているからでしょうか?
決してそうではありません。
この国際システムで生き残る最善の方法は、地域覇権国になることだと理解しているからです。
私とよく似た考え方をする中国人は、そのことを十分に理解しています。
そして、経済成長を続けながら、その経済力を軍事力に変換し、アジアを支配するために、あらゆる手段を講じるでしょう。
しかし、繰り返しになりますが、だからといって。私は彼らを非難するつもりはまったくありません。
私が彼らの立場なら、まったく同じことをするでしょう。
●地域覇権を目指している中国に対して、日米はどうするのか?
では、このような中国に対して、アメリカはどうするのか、中国の近隣諸国はどうするのでしょうか? 米国が何をするつもりなのかは、はっきりしています。 米国は中国に対抗するつもりです。 米国が「アジアへ軸足を移す」と言っているのはその表れです。 すでに申し上げたように、米国は他の地域覇権国の出現を許容しません。 この点に関しては、歴史を見れば、非常に明確です。 アメリカは、中国がアジアを支配するような状況は見たくないのです。 なぜなら、アメリカは、「中国がアジアを支配すれば、中国が自由に西半球地域を動き回れるようになるのではないか」とひどく恐れているからです。 だから、私たちは、中国がアジアで他の大国と対峙し、事実上アジアで釘付けになることを望んでいます。 そうすれば、中国が西半球を自由に歩き回ることはできなくなるからです。 だから、アメリカは、中国がアジアを支配するのを防ぐために、あらゆる手段を講じるつもりです。 もちろん、インド人、日本人、ロシア人、ベトナム人、シンガポール人、韓国人、台湾人、マレーシア人、インドネシア人も同じような意向を持っています。 日本人は、中国がアジアを支配するのを見たくないと思っています。 日本人は、米国と協力して中国を封じ込めたいと考えています。 中国が台頭し続けるにつれて、中国はアジアを支配しようとし、 それに対して、アメリカや日本やロシアやアジア地域の国々が団結し、中国を封じ込めるために、対中同盟を形成するのはほぼ確実だろうというのが私の考えです。 そして、それは激しい安全保障競争を引き起こすでしょう。 そして、その激しい安全保障競争は非常に危険なものとなるでしょう。 そして、その結果、中国と近隣諸国、そして中国とアメリカとの間で、戦争が起こる可能性が非常に高くなります。 このような理由から、最初に、私は「中国が経済的に成長し続けず、経済的パフォーマンスが横ばいになることを望む」と述べたのです。 以上が今回の講演の第一部になります。
・ウクライナ危機
●ウクライナ危機の原因として、正しいとされていること
第二部では、ウクライナ危機についてお話します。
そして、第3部では、第一部と第二部を関連付けてお話することにします。
ご存知のように、今年の2月以来、実際には2014年の2月22日以来、我々はウクライナを巡って大きな危機に直面してきました。
基本的には米国と西ヨーロッパの同盟国がロシアと対峙しています。
答えるのが最も難しいのは、「この危機を引き起こした原因は何か?」ということです。
米国や西ヨーロッパのほとんどの国では、「今回の危機はウラジーミル・プーチン、もしくは、プーチン個人によってではなく、ロシア人によって引き起こされた」というのが、一般的に正しいと考えられていることです。
それはつまり、「今回の危機が起きたのは、プーチンがソビエト連邦を再興したいと思っているから、少し違う言い方をすれば、プーチンが大ロシアを作りたいと思っているからだ」ということです。
彼らは、「プーチンには拡張主義者としての傾向がある」と主張しているということです。
「だから、プーチンを封じ込めるためには、あらゆる手段を講じなければならない。」
「2月22日以降に起こったことが、プーチンが拡張主義者であるという証拠だ。」
このようなものが、一般的に正しいと考えられていることです。
●ウクライナ危機の原因は、アメリカのリベラル覇権戦略
しかし、私はこのような考え方は間違っていると思います。
ウクライナ危機は、米国を中心とする西側諸国によって、引き起こされたものであると私は確信しています。
しかし、アメリカだけでなく西ヨーロッパ諸国、あるいは欧州連合(EU)も、この危機の発生に対して重要な役割を果たしています。
そのことについて、説明しましょう
1990年代半ばから、米国とヨーロッパの同盟国はNATOの東方拡大を始めたということを理解することが非常に重要です。
また、彼らは、EUを東に拡大することや旧ソ連の国々の民主化を推進することを考え始めました。
最終的な目標は、東欧諸国と旧ソ連の国々を西側に取り込むことでした。
この中にはウクライナやジョージアも含まれますが、ロシアの国境に接するこの二つの国をnatoの前線基地にすることも、最終的な目標とされています。
言い換えれば、東欧諸国を西側の一部にするということです。
・ウクライナ危機が起きたきっかけ
ウクライナの場合、2008年4月にブカレストで開催されたNATO首脳会議が、決定機なキーポイントでした。
2008年4月、このサミットが終了する時、ウクライナとグルジアの両国が将来NATOのメンバーになることが発表されました。
そして、1999年代半ばからNATOの拡張に反対してきたロシアは、この時、「このようなことは受け入れがたいことである」とはっきりと表明しました。
「ロシアの国境に接するウクライナやジョージアが西側の軍事的な要塞になるいう計画などありえない」ということです。
プーチンも、メドベージェフも ロシア外相も「そのようなことはありえない」と明言しました。
2008年8月にロシアとジョージアの間で戦争が起きたのは、偶然ではなく、ロシアにとって極めて重要なこの問題が原因で、引き起こされました。
ジョージア人たちは、「自分たちは西側の一部になるのだから、西側が自分たちを守ってくれる」と思っていたので、
ロシア人を刺激して怒らせても、大丈夫だと思っていたのです。
しかし、そうはなりませんでした。
ロシア人は、ジョージアとの戦争によって、「ウクライナとグルジアがNATOのメンバーになることなどあり得ない」ということを明確にしたのです。
しかし、それにもかかわらず、NATО、EU、そして(ほとんどの)西側諸国は、ロシアの国境侵害し続けました。
そして今年2月、米国の主導により、ウクライナでクーデターが起こり、ロシア人からは概ね親ロシア派と見られていた指導者が倒され、ロシアに非常に敵対的な指導者が、その後任となりました。
ロシアはこの出来事を、米国とヨーロッパの同盟国が、今も、ウクライナをNATOの前線基地にしようとしている証拠だと解釈しました。
このクーデターに対して、プーチンは2つの反応を示しました。
一つ目は、
ロシアにとって戦略的・経済的に重要であり、言うまでもなく歴史的にも重要なクリミアを占領したことです。
二つ目は、ウクライナを破壊しようとしたことです。
●なぜ、プーチンはウクライナを破壊しようとするのか?
西側諸国では、プーチンとロシアがいかにウクライナを征服することに関心があるかが盛んに語られています。
しかし、プーチンがウクライナを征服することを目標にしているというのは嘘です。
プーチンが西側諸国とウクライナ人に対して言動で示していることは、「ウクライナをNATOの前線基地にしようとする限り、それを阻止するためにウクライナを破壊し、あらゆる手段を講じる」ということです。
そして、それがまさにウクライナで起きていることなのです。
プーチンはウクライナを破滅させようとしています。
しかし、西側も、ウクライナ人と同様、プーチンの意図が理解できていません。
プーチンはウクライナを征服するつもりはないのです。
彼はウクライナをNATOの前線基地にさせるつもりはありません。
●ロシアの危機感を理解できない西側
ところで、なぜ、プーチンが「ウクライナを西側の一員にすることは脅威だ」と感じるのか分からないという人が多くいます。
彼らは、「プーチンは、今は21世紀だということを理解していないのでウクライナに侵攻したのだろう」などと言っています。
しかし、私はなぜこのようなことを言うのか理解できません。
大国は自国の安全保障に非常に敏感です。
だから、NATОがロシアの目の前までやってきても、ロシアは「大したことはない。NATОを使って好きな事をしても構わない」と言うだろうというのは、私からすれば全く考えられないことです。
アメリカには、外交政策としてモンロー・ドクトリンがありますが、
もし中国が本当に強大な国となり、カナダとメキシコが中国と同盟を結ぶことを決定し、カナダとメキシコに中国を招き入れるとしたら、米国が大したことではないと言うと思いますか?
そんなことは決してあり得ません。
カナダ人とメキシコ人は、「中国と軍事同盟を結び、中国が西半球に入ってこさせることなど絶対にありえない」ということを十分に理解しています。
米国がそれを許すとは考えられません。
40年以上にわたって敵対してきた軍事同盟であるNATОが、自分たちの目の前まで進軍してくるのをロシアが容認すると思う人がなぜいるのでしょうか?
ウクライナのオレンジ革命を覚えていますか?
オレンジ革命で、アメリカは、民主化を促進し、民主的な指導者を権力の座に就かせようとしました。
言い換えれば、親欧米的な人物を権力の座に就かせようとしたということです。
このようなことをすれば、ロシアを悩ませることになりますよね?
西側の指導者たちが「プーチンを倒し、民主的に選ばれた指導者に代えよう」と話したりほのめかしたりし始めれば、プーチンを怒らせ、猜疑心を抱かせることになりますよね?
このような行為は慎むべきだというのは、地政学の入門レベルの知識です。
しかし、西側諸国、特にアメリカでは、地政学の基本に沿って考えることを全くしていないのです。
アメリカ人は、望むことはほとんど何でもできるし、責任を取らせられることはないと考えています。
しかし、ウクライナに関しては、そのようにはなりませんでした。
プーチンはそのことを我々にはっきりと示しました。
●ロシアへの強硬姿勢を強める西側
しかし、アメリカとヨーロッパの同盟国は、未だにそこから教訓を学んでいません。
ロシアの行動に対して、反発しているだけです。
ウクライナから手を引くどころか、さらにロシアを攻撃する方向に進んでいるのです。
西側は、ロシアに厳しい経済制裁を科しました。
西側は、これまで駐留させていなかった軍隊を東欧に移動させることを検討しています。
アメリカ議会はウクライナ軍を強化したいと思っています。
ロシアがそれらのことを黙って見過ごすと思いますか?
このような西側の対応は、大国がどのように行動するのかを理解している私にとっては、考えられないことです。
大国は自国の安全保障に非常に敏感です。
そして、本当に追い込まれた時、大国は激しく襲いかかってくる傾向があります。
ロシアは核武装国です。
だから、ロシアが絶望的だと思う状況に追い込みたくはないので、注意しながら、ロシアを苦しめるということになります。
しかし、アメリカはもうそんな配慮は考えていないのです。
そして、アメリカは、基本的に欧州諸国を従えています。
そのようにして、西側は、ロシアに対する攻撃的な姿勢を更に強めています。
そして、西側の人々は、ロシアが苦しんでいることに熱狂しているのです。
そして、彼らは、このように言っています。
「ロシアが降参し、その後、西側と融和していくことに賭けても良い」と。
しかし、私はそのような予想に大金を賭けるつもりはないし、
これは本当に厄介なことになるかもしれないと思っています。
多くのヨーロッパ人は、ウクライナ危機は良いことだと考えていいます。
なぜなら、「今回のことで、アメリカが防衛のために今後も欧州に留まっていてくれるだろう」と彼らは思っているからです。
「NATОは一新され、生まれ変わるのだ」と。
このことについては、後で、もう少し話します。
●ウクライナ危機がアメリカ外交に及ぼす悪影響
しかし、私の見方では、このような状況が非常にマイナスの結果をもたらしています。
まず何よりも、ロシアと西側諸国との関係は、非常に悪化しています。
今年の2月までは、ロシアとアメリカ、ロシアとヨーロッパの関係はそれなりに良好でした。
非常に良好だったとは言えませんが、それなりに良好だったのです。
しかし、今は、その関係が著しく悪化しているのです。
なぜこれが西側諸国にとって悪いことなのでしょうか?
まず第一に、シリアの問題解決のためには、ロシアが必要です。
2013年8月、化学兵器をめぐるシリア危機で、ロシアの利益にならないのにもかかわらず、バラクオバマの失敗の尻ぬぐいをしたのはロシアでした。
イランの問題でもロシアが必要です。
核兵器や核物質の拡散の問題に関してもロシアが必要です
アフガニスタンからの撤退にもロシアが必要です。
ロシアはアメリカにとって重要な国です。
アメリカはロシアの協力を必要としています。
今のように関係が悪化していると、協力してもらうのはますます難しくなるでしょう。
それを考えると、今は酷い状況です。
そして、アジアの状況を見れば、
私の考えでは、アジアでは台頭する中国が米国と日本の敵対国になることは確実です。
そして、ヨーロッパでも、これまで米国とかなり友好的な関係にあったロシアと、基本的には敵対するようになっているのです。
冷戦終了後の初期は、アメリカは地球上で最も強力な国家でしたが、
アメリカは、ロシアとも中国とも良好な関係にありました。
そして、中国は当時、現在ほど強力ではありませんでした。
しかし、時が経つにつれて、中国は台頭してきています。
もし中国がこのまま台頭を続ければ、最終的にはアメリカよりも強大な国になるでしょう。
中国は台頭を続けています。
そして、中国とアメリカは非常に険悪な関係にあり、それはさらに悪化する可能性が高いです。
そして、米国とロシアの関係も悪化しています。
これを見れば、なぜ人々が「世界は多極化している」と話しているのかが分かります。
・日本の安全保障と「中国の台頭とウクライナ危機」
●なぜウクライナ危機が日本の安全保障を脅かすのか?
そして、「この2つの状況の間にはどのような関連性があるのか?」というのが私の話の3つ目の部分になります。
一方には中国の台頭、他方にはウクライナ危機があります。
そして、ウクライナで起きたことは、日本やアメリカから見ればアジアの安全保障にとって悪いことです。
しかし、中国から見れば、ウクライナ危機は、この上なく素晴らしいニュースです。
なぜか?
ウクライナ危機の結果生じた良くないことの一つ目は、
ロシア人を中国人の側に追いやったということです。
しかし、すでに述べたように、中国の台頭が続くならば、中国を封じ込めるためには、中国に対抗する勢力をロシアと一緒に形成する必要があります。
そして、一緒になって、中国を封じ込めることは、日本とロシアとアメリカにとって、大きな利益になります。
モスクワに行って話を聞けば分かることですが、ロシア人は、中国に対して根強い怖れを抱いています。
だから、「中国を封じ込めることが重要な目標」であるロシアと、日米が同盟を結ぶことは、自然なことなのです。
しかし、アメリカと西ヨーロッパの同盟国がしたことは、
「中国の側にロシアを追いやった」ということです。
地政学的な観点から見れば、これは愚かなことです。
ウクライナ危機の結果生じた良くないことの2つ目は、アメリカが表明している「アジアに軸足を移す」という戦略への悪影響です。
米国が、将来直面する可能性のあるすべての脅威の中で中国の脅威ほど憂慮すべき脅威は地球上に存在しません。
だから、米国は、アジアへ軸足を移すことを表明しているのです。
ご存知のように、歴史的にヨーロッパは米国にとって、西半球を除けば世界で最も重要な地域であり続けてきました。
世界で2番目に重要な地域はアジアであり、3番目に重要な地域はペルシャ湾です。
米国が安全保障の観点から重要視しているのは、西半球以外では、この3つの地域です。
そしてヨーロッパは、今申し上げたように、我々にとって世界で最も重要な地域であり続けてきました。
それが根本的に変わりつつあるのです。
アジアはいまや世界で最も重要な地域になりつつあります。
私は、ペルシャ湾が世界で2番目に重要な地域になり、ヨーロッパは、ペルシャ湾よりも重要度が一段と低い3番目になると考えています。
だから、アジアへ軸足を移すということは、
欧州からアジアに軸足を移すということを意味します。
しかし、ウクライナ危機とNATO強化の必要性を考えると、米国はアジアへ軸足を移すことがますます難しくなるでしょう。
というのも、ウクライナ危機の結果、アメリカは、2月22日以前にはなかったような形でヨーロッパに釘付けになっているからです。
2月22日以前は、欧州に行き、欧州のエリートたちと話をすれば、彼らが米国が欧州を捨ててアジアに向かうのではないかと心配していました。
そして、そのような心配をするもっともな理由もありました。
なぜなら、ヨーロッパは西半球以外では、戦略的優先順位の第1位から第3位になりつつあったからです。
しかし今、愚かな「ウクライナ危機」のために、突然、NATОが非常に重要な意味を持つようになっているのです。
さらに、米国は中東でもう一つ別の戦争を始めることを決定しました。
アメリカは、中東ですでに行っている戦争だけでは満足できないようです。
お気付きでしょうが、これは1989年以降、アメリカが戦った7度目の戦争です。
1989年以来、3年のうち2年は戦争をしているのです。
そして、その7つの戦争は、ある戦争を行った結果として起きたのではなく、それぞれが単独で起こされた戦争なのです。
ISISとの戦争は、その7回目の戦争です。
米国がアジアへの軸足を移すことを表明している時に、アメリカは、ロシアとの間でウクライナ危機を引き起こしました。
それは驚くほど愚かなことでした。
そして、その最中、愚かにもISISに対して宣戦布告をしました。
そして、この2つの紛争は、米国が「アジアへ軸足を移すこと」を難しくしています。
アジアの安全保障を考えた場合、2つ良くないことが起きています。
一つ目は、当面の間、ロシアは、我々の側に付く代わりに、中国の側に追いやられているということです。
これは、良くないことです。
アジアの安全保障を考えた場合、起きている良くないことの2つ目は、
有意義な形で、アメリカがアジアに軸足を移すことが、困難になっていることです。
●アメリカがアジアに軸足を移すことができないでいることが、なぜ日本にとって非常に重大な事態であるのか? (アメリカの核の傘の重要性)
アメリカが本格的にアジアに軸足を移すことができないでいることは、2つの理由で、日本にとって非常に重大な事態です。
その第一の理由は、東アジアを見渡した場合、他に頼れる大国があまりないということです。(× pivot to Asia = 日本だけでは非力 → 中国の脅威↑)
フィリピン、ベトナム、韓国、台湾……つまり、頼れる国がないのです。
日本には、アメリカが必要だということです。
日本人は、そのことを十分に理解しています。
初めは、アメリカは基本的な論理を理解し、アジアに軸足を置いて日本を助けてくれるように見えました。
しかし、今では、そうする代わりに、アメリカは、中東で別の戦争に巻き込まれ、苦境に陥っています。
そして、大規模な軍事力をヨーロッパに置き続けるつもりのようです。
アメリカが本格的にアジアに軸足を移すことができないでいることが、なぜ、日本人にとって重要な事態であるのか?
その2つ目の理由は、
「日本が、核兵器を持っていない」ことと関係しています。(× pivot to Asia = 核の傘の信憑性・効力↓ → 中国の脅威↑)
中国が台頭を続けているので、安全保障競争が過熱し始めていますが、アジアでは日本を除くすべての主要国が核兵器を保有する状況です。
中国は核兵器を持っています。
ロシアも核兵器を持っています。
インドも核兵器を持っています。
アメリカも核兵器を持っています。
しかし、日本はは持っていません。
実を言えば、核兵器は究極の抑止力です。
だから、危険な地域に住む国家は自国の核兵器を持ちたがります。
そうしたがるのは、その国が狂っているからではなく、戦略的思考力が優れているからです。
しかし、日本は核兵器を持っていません。
だから、もし中国との間で有事が起きた時、核兵器を持っていなければ、日本は非常に不安になるでしょう。
日本人は、もちろんそのことを理解しています。
それに対して、日本にはひとつの解決策があります。
もしくは、少なくとも、今までは解決策がありました。
その解決策とは、アメリカの核の傘に頼るということです。
そのアメリカの核の傘は、日本人の頭上にあります。
日本人は、アメリカの通常戦力による安全保障だけに頼っているのではなく、
核抑止力についても、アメリカに頼っているのです。
だから、アメリカが日本のためにここにいてくれ、そして、そこで賢明な判断をしてくれるはずだと信じているのです。
しかし、現状を見れば、アメリカが有意義な形でここにいてくれるのかは定かではありません。
アンクルサムが賢明な判断ができるのかも定かではありません。
ウクライナで起きたことを見れば、アメリカは、賢明な判断ができていません。
その上さらに、アメリカは、アジアに軸足を移し、有意義な形で日本のためにここにいることが難しくなるような立場に今、身を置いています。
だから、ウクライナ危機は、日本にとって、重要な意味が内包されているのです。
そして、その意味するところは、決して良いものではありません。
最後に言いたいことは、楽観的でいられる理由もあるということです。
その理由とは、この戦いがまだ始まったばかりだということです。
中国は台頭していますが、現時点では超巨大な国ではありません。
そうなるのは、これから10年から15年先のことです。
そして、中国の脅威がより顕在化するにつれて、あるいは中国の脅威が具体化し、明確になるにつれて、米国が目を覚まし、中国を封じ込めるために、アジアに軸足を移し、日本と緊密に協力して安全保障の傘と核の傘を日本に提供することが重要であることを理解することを願っています。
ありがとうございました。
※この日本語訳をベースにして、理解しやすいように意訳したり、説明を加えたり、関連写真を入れて、動画にしたものがこちらです。
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