次に、ナショナリズムについて説明することにしましょう。
ナショナリズムの人間観は、リベラリズムとは異なります。
ナショナリズムは、人間が社会的動物であるという前提に基づいています。
人は生まれながらにして、その社会集団と濃密な関係を持つ存在であるということです。
生まれた時から、その人の周りには社会が存在しています。
森の中で、たった一人で誕生した訳ではありません。
人は、その社会集団の一員として生まれるのです。
このように、ナショナリズムでは、人間は、非常に種族的な存在である、と考えます。
だから、ナショナリズムを支えるものとリベラリズムを支えるものは、出発点となる前提、つまり根底にある前提という点で、まったく異なっているのです。
そして、個人主義は集団への忠誠よりも後回しにされます。
例えば、世界のどこかで、誰かがアメリカ人を殺したり、ISISがアメリカ人を殺した場合、それはサウジアラビア人やイギリス人が殺される場合とは根本的に違います。
なぜなら、我々の仲間が殺された、ということになるからです。
これが、人が社会集団の一員である、という意味です。
アメリカ人は他のアメリカ人のことを気にかけます。
つまり、人は生まれた時から、社会的な動物である、ということです。
家族という最も重要な集団は別として、人は、特定の社会集団の一員として生まれ、その社会集団と社会的な関わりを持つ、ということです。
家族を別にすれば、今日の世界で最も重要な集団は国家です。
それについては、また後で説明することにします。
ナショナリズムとは何でしょうか?
わたくしの簡単な定義はこのようなものです。
ナショナリズムとは、他の集団と区別される特徴を持つ個人の集まりである国家が、独自の国家を持つべきだとする一連の政治的信条である。
国民国家という言葉を思い浮かべてみて下さい。
国民国家とは、ナショナリズムを体現するものです。
世界は「国家と呼ばれる部族に分かれているのです。
そして、それぞれが自分たちの国家を望んでいます。
しかし、今日の世界について考えてみると、今日の世界の地図を見てみれば、そこは完全に国民国家で覆われています。
国民国家しか存在しません。
1450年までさかのぼってヨーロッパの地図を見ると、そこには国家はひとつもありません。
国家が成長し、国民国家が成長し、やがて世界は国民国家だけで埋め尽くされるようになったのです。
パレスチナ人とイスラエル人を見てみましょう。
シオニズムを信じるユダヤ人がいます。
シオニズムとは何でしょうか?
自分たちのユダヤ人国家を持つことです。
シオニズムの父であるテオドール・ヘルツルの最も有名な著書に『ユダヤ国家』というものがあります。
パレスチナ人は何を望んでいるのでしょうか?
2国家解決策なのでしょうか?
パレスチナ人は自分たちの国家を望んでいます。
この惑星にはたくさんの国家があり、その多くは独自の国家を持ち、ほとんどすべての国家が自分たちの国家、つまり、国民国家を望んでいる。
それがナショナリズムの本質です。
もう一歩踏み込んで考えれば、国家は主権や自決を非常に重視するということです。
パレスチナ人は、自分たちの政治がどうあるべきかをイスラエル人に決められることを望んでいません。
パレスチナ人は自分たちの国家を望んでいるのです。
ユダヤ人もドイツ人もアメリカ人も自分たちの国家を望んでいます。
なぜなら、主権が重要であると考えているからです。
ドナルド・トランプをみれば、それが分かるでしょう。
ドナルド・トランプはアメリカ第一主義を掲げて選挙戦を戦いました。
アメリカ第一主義です。
アメリカという国家は、まず我々アメリカ人の面倒を見るべきであるということです。
そしてトランプは、我々の主権を誰にも邪魔されたくないと明言しています。
トランプはは、昨日、他国の主権に干渉すべきではないと言っていました。
ナショナリズムの力を認めているということです。
つまり、国家は自分たちの国家を欲しており、いったん国家ができると、主権や自決を非常に重視するようになるのです。
ロシアが、アメリカの選挙に干渉してくるのは許せないですよね?
なぜなら、アメリカは主権国家だからです。
ロシアや他のいかなる国も、我々の選挙に干渉する権利はない、というのが、アメリカ人の基本的な主張です。
このようなものが、ナショナリズムなのです。
リベラリズムとナショナリズムの違いは感じていただけましたか?。
リベラリズムは個人に焦点を当てます。
そして、その結果、誰もが持っている個人の権利を重視することになるので、普遍主義的な側面を持つようになるのです。
しかし、ナショナリズムは、根本的に、その社会集団独自のものとなるので、普遍性を持ちません。
つまり、両者は、根本的に違うのです。
※続き
④リベラル覇権主義とは?
→日本語訳
この訳に基づいて製作された動画はこちらです(関連写真も入れているので理解の一助になります)。
※この講演は、下記の著作の内容に基づいています。
●日本語訳一覧