⑥何が、リベラル覇権主義を推し進めたのか?(The Great Delusion with Professor John Mearsheimer ミアシャイマー 全訳)

次は、なぜアメリカはリベラル覇権主義を推し進めたのかを説明しましょう。

まず第一に、すでに申し上げたように、アメリカは非常にリベラルな国です。
それがアメリカを素晴らしい場所にしています。
ここで理解していただきたいのは、私は自由主義が悪いことだと主張しているわけではないということです。
私は、自由民主主義こそ最高の政治システムだと考えています。
そして私は、自由民主主義国家であるアメリカ合衆国で生まれ、自由民主主義国家で育ったという幸運に感謝しています。
私はそれ以外の政治システムを望みません
私の主張は、自由民主主義こそ、ありとあらゆる政治システムの中で最良のものだということです。
しかし外交政策としては、自由主義は破綻しています。
ここにいる方々には、私の主張を、ご理解いただけると思いますが、この国は基本的にリベラルな国であり、私のような現実主義者、アメリカでは過酷な目に合うことになります。
なぜなら、リベラル派は現実主義者が嫌いだからです。
要するに、この国は非常にリベラルな国であるということです。
このスライドに戻りますが、1990年代初頭にリベラル覇権主義を外交政策として採用させようとすることは、非常に簡単なことでした。
リベラルな国であるがゆえに、アメリカ人はリベラル覇権主義のような考え方に引き寄せられるからです。
第二に、アメリカのナショナリズムのせいで、外交政策というさまざまな要素が絡み合った難しい問題に対して、アメリカが、思いあがった態度で向き合うようになったからです。
このことは、なぜアメリカはリベラル覇権主義を推し進めたのかという論点の中で、非常に重要な部分だ。
私は、ナショナリズムが地球上で最も強力な政治イデオロギーであると言いました。
そして、以前は言わなかったことだが、アメリカは非常にナショナリスティックな国であるということです。
シカゴ大学やハーバード大学など、図書館に行けば、アメリカのリベラリズムに関する本が所狭しと並んでいます。
しかし、アメリカのナショナリズムに関する本は、おそらく棚1つ分くらいしかないでしょう。
なぜなら、アメリカ人は自分たちがナショナリスティックな国だとは決して言わないからです。
しかし、アメリカ人は非常にナショナリスティックなのです。
このことについて少し説明します。
マドレーン・オルブライトは、リベラル覇権主義を愛するリベラル派の正統派ですが、次のような発言で有名です。
「我々は必要不可欠な国だ。私たちは、より高く立ち、より遠くを見るのだ」
この発言は、純粋無垢なナショナリズムです。
アメリカは他の国とは対照的で、アメリカは欠くことのできない国である、と言っているのです。
この「必要不可欠な国」という言葉や、「より高く立ち、より遠くを見る」という言葉には、アメリカのナショナリズムが含まれています。
アメリカ人は、優れている、アメリカは丘の上に輝く都市である、と言いたいのです。
だから、我々には、世界中の国々を自由民主主義国家に作り替える権利と責任とその能力があると思っているのです。
これはナショナリズムです。
私が言いたいことを伝えるために、別の例を挙げましょう。
アメリカ例外主義です。
皆さんはきっとアメリカ例外主義は、正しいと信じているでしょう。
もしアメリカの政治家に立候補するつもりなら、アメリカの例外主義を信じていると言った方がいいです。
アンドリュー・クオモはそれを否定して問題になったばかりです。
そして、バラク・オバマは、彼の主張に、噛みつきました。
そして、クオモは、すぐに議論から逃げました。
アメリカの例外主義が正しいと信じているということは、アメリカのナショナリズムの存在を認めている、ということです。
つまり、この国はナショナリズムとリベラリズムの両方によって支えられているのです。
だから、この国が、暴力的に世界を作り変えようとしても、驚くには当たりません。
そして最後に、これは私の主張の非常に重要な部分なのだが、リベラル覇権主義を追求できるのは一極体制の時代だけである、と確信しています。
というのも、二極体制や多極体制では、他の大国を相手にしなければならないからです、
現実主義の原理に従って行動しなければならないからです。
二極体制とは2つの大国が存在することを意味し、多極体制とは3つ以上の大国が存在することを意味します。
一極体制は、大国が1つしか存在しないことを意味します。
大国が1つしかなければ、大国政治を心配する必要はありません。
冷戦末期のアメリカはそうでした。。
私たちはゴジラのようなものであり、他のすべての国々に比べて信じられないほどの力を持っていました。
チャールズ・クラウトハマーは、これを一極体制の瞬間と呼びました。
だから、リベラル覇権主義を追求できたのです。
アメリカは信じられないほどの力を持っていました。
アメリカは、自由民主主義は未来の潮流だと考えていました。
アメリカに追い風が吹いていると考えていました。
自由民主主義を広めるのは簡単なことだと考えていました。
勢力均衡政治について心配する必要もありませんでした。
1991年に、ソ連は消滅しましたが、その前からソ連は弱小国でした。
中国はまだ台頭していませんでした。
ライバルになる国はひとつもなかったのです。
パワーバランスを心配する必要はないから、リベラル覇権主義を追求する自由がありました。
二極体制や多極体制では、一極体制の時のようには、リベラル覇権主義を追求することはできません。
そして、現在は、中国の台頭やロシアの復活を考えると、リベラル覇権主義を追求する余地はあまりありません、
ご存じのように、アメリカはアジアに軸足を動かさなけばなりません。
1990年代初頭から始まった一極体制下で、リベラルでナショナリスティックなアメリカが、世界を作り替えようとした、ということが起きたことだったのです。

※続き
⑦リベラル覇権主義は、どのような結果を引き起こしたのか?
→日本語訳

※注釈
「この国はナショナリズムとリベラリズムの両方によって支えられている」は、「リベラリズムという宗教を強く信仰しているナショナリスティック国」と言い換えられるでしょう。
また、リベラリズムとナショナリズムという相対するものが両存しているという矛盾に関しては、ミアシャイマーは「リベラリズムは国民をバラバラにする作用があるが、ナショナリズムを国民を結束させる作用がある。だから、リベラルな国では、ナショナリズムを強くする必要がある」という説明をしています。

 

 

この訳に基づいて製作された動画はこちらです(関連写真も入れているので理解の一助になります)。

※この講演は、下記の著作の内容に基づいています。


●日本語訳一覧

・前置き

①リベラリズム(自由主義)とは何か?

②「リベラリズムは、暴力を引き起こす」という問題に対する解決策

③ナショナリズムとは?

④リベラル覇権主義とは?

⑤なぜ、リベラル覇権主義が、外交政策として採用されたのか?

⑥何が、リベラル覇権主義を推し進めたのか?

⑦リベラル覇権主義は、どのような結果を引き起こしたのか?

⑧なぜ、リベラル覇権主義は失敗したのか?

⑨非自由主義的なリベラリズム

⑩自制的な外交政策について

⑪リベラル覇権主義は、国内のリベラリズムを脅かす

⑫国際政治の未来予測