リベラル覇権主義の実績について、少し話します。
これらはアメリカの外交政策の失敗です。
ブッシュ・ドクトリンと中東、アフガニスタンについて話しましょう。
我々がアフガニスタンを自由民主主義国に変えられるとは思えません。
それどころか、いつタリバンに引き渡すかだけの問題になっています。
アフガニスタン戦争は、アメリカ史上最も長い戦争です。
イラクは大失敗でした。
ISISの誕生につながり、数十万人が死にました。
イランは現在、イラクで大きな影響力を持っています。
シリアでは、アメリカは、アサド政権を混乱させるという重要な役割を果たしました。
リビアでは、カダフィ大佐の政権打倒に重要な役割を果たしました。
アメリカは現在イエメンでの戦争に深く関与していますが、人権侵害の大惨事が起きています
この戦争を支援し、サウジアラビアを支援するという不名誉な振る舞いをしていることを、アメリカ人は恥じるべきです。
中東における我々の実績を見て下さい。
ドナルド・トランプの名誉のために言っておくと、トランプは選挙戦でこのことを指摘しました。
そしてアメリカ国民も、このことを十分に理解しています。
しかし、この国のエリートたちは、このことを理解していません。
なぜなら、彼らは、これらの戦争に多大な投資をしているからです。
しかし、その運用実績は悲惨です。
ウクライナ危機と米露関係の悪化については、もちろん、エリートたちは、ロシアを非難しています。
自分たちのことを何一つ責めていません。
しかし、実際に、東欧地域で起きたことは、冷戦が終結したときに、アメリカがNATOとEUを東方へ、ロシアの国境まで進軍させることを決めたということです。
その目的は、冷戦後に東ヨーロッパで生まれた民主主義を強固なものにする手助けをするためでした。
そして、アメリカは、東欧諸国をNATOやEUのような国際機関に参加させることにしたのです。
資本主義にのめり込ませ、リベラルな民主主義国家にすることにしたのです。
自由民主主義でなかった国々に対しては、革命を煽ることにしたのです。
ウクライナのオレンジ革命を覚えていますか?
グルジアのバラ革命を覚えていますか?
これらは全て、この戦略の一部だったのです。
私やジョージ・ケナンのような現実主義者は、皆、当時このように言っていました。
冷戦時代、ソ連の宿敵だった軍事同盟を、ロシアの国境まで進軍させることができると考えるのは馬鹿げている。
ロシアが、それを看過するはずがない。
そしてもちろん、ロシアは1995年以降、NATOの拡大について金切声の悲鳴を上げていました。
しかし、アメリカは聞く耳を持ちませんでした。
そして、結局は、その戦略は、2008年のグルジア戦争と2014年のウクライナ危機で、台無しになったのです。
ロシアがクリミアを奪還したり、クリミアを占領したりする危機を引き起こしたのは、見方にもよるが、主にアメリカの責任です。
ロシアは基本的に、ウクライナを西側の軍事的な砦にするつもりはないでしょう。
ロシアは、そうなる前に、ウクライナを破壊するつもりです。
ロシアは、グルジアについても同じことを言っていました。
アメリカから見れば、ロシアの考え方は、極めて理にかなっていることです。
モンロー・ドクトリンという言葉を聞いたことはありますか?
そして、モンロー・ドクトリンの内容はご存知ですか?
ヨーロッパや東アジアなどのアメリカから遠く離れた大国が、「軍事力を持って西半球にやってきて、この地域のどこかの国と同盟を結ぶこと」は絶対に許されない。
というのが、モンロー・ドクトリンです。
わたくしは高齢なので、キューバ危機のことを覚えています。
ソビエトがキューバにミサイルを配備したと知って、アメリカ人は激高しました。
そしてその後、彼らはシエンフエゴスに海軍基地を建設すると言い出しました。
この人たちは何様のつもりなのか?。
ここは西半球だということを理解していないのか?
この地域に軍隊を移動させることは許されていない。
というのが、当時のアメリカ人の反応でした。
アメリカはいまだにキューバに制裁を加えています。
キューバが遠くの大国と軍事同盟を結ぶという大胆な行動に出たせいで、1959年以来、このような事態が続いているが、今後、これがいつまで続くのかは、神のみぞ知るところです。
わたくしが幼い頃、母に言われたことは、ガチョウにとって良いことは、鳥にとっても良いことだ、ということです。
もしアメリカがモンロー・ドクトリンを持つことができるなら、ロシアがモンロー・ドクトリンを持っていたこと、あるいは、持っていることにショックを受けることはないし、
われわれがNATOをロシアの国境まで進軍させることを、ロシアが嫌がっていることに、ショックを受けることもないでしょう。
多くの戦史を学んできた経験から言えることですが、大国は、国境については極めて敏感です。
「敵が国境まで忍び寄ってきても、そのことを気にせずに、平和と愛とマリファナの世界に浸っている」というのは、国際政治からかけ離れた、全く別の世界の話です。
国境まで迫ってきたリベラル覇権主義を叩きのめすことは、リアリズムの入門レベルの知識であると同時に、それは、ナショナリズムの体現でもあるのです。
米国はロシアと中国の政治に干渉したいと思っています。
そして、これが中国に対する関与政策へとつながりました。
アメリカの対中政策の目標は当初から、中国を自由民主主義国家にすることでした。
そのためには、中国の政治に干渉する必要があったのです。
しかし、中国がそれを喜んだはずがありません。
ロシアが選挙に介入していることについて、怒りで金切り声を上げるアメリカ人たちを見てきましたよね?
ガチョウと鳥の話はアメリカの中国への関与政策にも当てはまる、ということです。
でも、アメリカが中国やロシアの政治に干渉しようとした場合は、彼らは嫌がらないと思いこんでいるアメリカ人もいるのです。
だから、そういうアメリカ人は、中国やロシアが、アメリカの干渉を嫌がることを知ると驚くのです。
共和党と民主党のリベラル派は、アメリカは害のないの覇権国家であると思い込んでいます。
アメリカは善意に満ちた覇権国家であると思い込んでいます。
だから、世界中の国をアメリカと同じような国にしたいと思っていました。
そして、それが実現すれば、我々は皆、永遠に幸せに暮らせると思っていたのです。
しかし、そううまくはいかなかったのです。
中東という巨大な災害地帯を見れば、そのことが分かるでしょう。
何十万人もの人々が死にました。
アメリカ人の手は血塗られているのです。
米露関係についてはどうでしょうか?
その関係悪化の主な責任はアメリカににあります。
そして、中国への関与政策に関しては失敗でした。
この関与政策の主要な立案者だったカート・キャンベルような人たちも、今ではそのことを認めています。
中国への関与政策は、大失敗だったのです。
※続き
⑧なぜ、リベラル覇権主義は失敗したのか?
→日本語訳
この訳に基づいて製作された動画はこちらです(関連写真も入れているので理解の一助になります)。
※この講演は、下記の著作の内容に基づいています。
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