最後のポイントは、リベラル覇権主義の終焉についてです。
一極集中では、唯一の極であるアメリカは大国政治について心配する必要がなかったから、リベラル覇権主義を実行できたのです。
定義上、大国が1つしかなければ、大国政治は成り立たないからです。
しかし今、私たちは一極集中から多極化へと移行しつつあるのです。
このことは、ホワイトハウスが2017年12月に発表した国家安全保障戦略に関する文書にはっきりと反映されています。
そして2018年1月には、国防総省が国家安全保障戦略に関する同様の文書を発表しました。
これらの文書はいずれも、多極化が進行中であり、一極体制は終わったと明言しています。
そして、大国政治が今後の主な関心事であるとしています。
そのことに関連することのひとつは、中国の台頭であり、聴衆の若い皆さんにとっては生涯で最も重要な問題になると思います。
そしてもうひとつは、2000年にプーチンが大統領に就任した後のロシアの復活です。
ロシアは衰退しつつある大国です。
ロシアのパワーを過大評価してはいけません。
アメリカにとって本当の脅威は中国です。
しかし、それでも、ロシアの復活は侮れません。
ロシアは何千もの核兵器を持ち、多くの問題を引き起こす可能性があるからです。
我々はウクライナ危機で彼らと対立しています。
だから、ロシアには、真剣に注意を払わなければなりません。
私がここで皆さんに申し上げたいのは、多極化の到来とともに、リベラルな覇権主義はなくなるだろうということです。
しかし、もし私が間違っていたとしたら、つまり、中国の台頭が続かず、ロシアが再び崩壊し始めたために、一極体制に戻るとしたら、どのような外交政策を支持することになるでしょうか?
リベラルな覇権主義に反対し、自制を主張する立場に戻ることになるでしょう。
しかし、中国が台頭していきているから、私のような人間が今後、自制的な外交政策を主張する必要はないでしょう。
これは私の結論でもあるのだが、私はこのことについて非常に複雑な感情を抱いています。
そのことについて説明します。
私は中国の台頭とロシアの復活を歓迎しています。
その理由は、リベラル覇権主義が消え去ることを意味するからです。
しかし、そのことは同時に、米国が潜在的な競合相手に直面しているということを意味しているのです。
私は、中国とロシアという2つの問題に対処するよりも、リベラル覇権主義という問題に対処する方がいいと思っています。
ありがとうございました。
この訳に基づいて製作された動画はこちらです(関連写真も入れているので理解の一助になります)。
※この講演は、下記の著作の内容に基づいています。
●日本語訳一覧
・前置き
①リベラリズム(自由主義)とは何か?
②「リベラリズムは、暴力を引き起こす」という問題に対する解決策
③ナショナリズムとは?
④リベラル覇権主義とは?
⑤なぜ、リベラル覇権主義が、外交政策として採用されたのか?
⑥何が、リベラル覇権主義を推し進めたのか?
⑦リベラル覇権主義は、どのような結果を引き起こしたのか?
⑧なぜ、リベラル覇権主義は失敗したのか?
⑨非自由主義的なリベラリズム
⑩自制的な外交政策について
⑪リベラル覇権主義は、国内のリベラリズムを脅かす
⑫国際政治の未来予測