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プーチンが停戦に応じない理由(ミアシャイマー)

停戦ちらつかせ軍事支援の意欲そぐ狙いか…プーチン大統領の構想、アメリカに伝達と報道

・ソース
2023.12/21のミアシャイマーのインタヴュー

ミアシャイマーは、「併合した東部4州に加えて、更に領土を獲得するまで(4州を併合するまで)、停戦に応じない」と発言しています。
その理由として、下記の点を挙げていました。

・ウクライナ側が、停戦を「体勢を立て直すための時間」として利用する可能性がある。

・ミンクス合意を西側が守られなかったことなどにより、プーチンの西側に対する不信感が根強い。
プーチンは、これまで西側をあまりにも信用しすぎたことを後悔しているそうです。

・戦場で、現在ロシアが優勢で主導権を握っているので、今停戦する理由がない。

※ミンクス合意に関するロシア側の言い分はこちら↓
https://sputniknews.jp/20221210/14185124.html


※ミアシャイマーのインタヴューや講演の再生リストはこちら↓

ミアシャイマーが、以前から「プーチン(ロシア)はウクライナを征服しようとはしない」と言っていたことは、予測を外したことになるのか?

ミアシャイマーは、2014年から、「ソ連やアメリカがアフガニスタンでの戦争に失敗したり、イスラエルがレバノン侵攻で失敗したり、アメリカがイラク戦争で失敗したことを考えれば、ゲリラ戦などで泥沼に引きずり込まれる可能性のあるウクライナ征服を、頭の良いプーチンがするはずがない」という趣旨の発言していました。

しかし、ウクライナ戦争で、ロシアはウクライナ東部4州を併合したので、ミアシャイマーの予測は外れたという批判が一部でされています。
今回は、このことについて書きたいと思います。

2023年の11月に行われた講演後の質疑応答の中で、このことについて問われたミアシャイマーは次のような回答をしていました。

11月の講演後の質疑応答の動画

ミアシャイマーの回答の要点は、下記のようになります。

①「ウクライナを征服しようとしない」という発言の主旨は、「”ウクライナ全土”を征服しようとはしない」ということである。

②侵攻前とその一か月後に始まった停戦交渉が決裂する前までは、プーチンはウクライナの中立国化を目指していたのであり、ウクライナ征服を目指していなかった。

③それゆえに、予測を外したとは思わない。


この発言の意味について考えてみたいと思います。

2015年にシカゴ大学で行われたミアシャイマーの講演より引用。すでに併合した4州と、これから併合するつもりであると言われているその左隣の4州はロシア系住民が住んでいる地域であることが分かる。 キエフの東側半分を征服する場合は、赤色のウクライナ系住民が住む地域を征服しなければならない。

①に関しては、「征服しようとしない」という意味は、「ウクライナ人の激しい抵抗に合うようなことはしない」ということを言いたかったということです。そして、併合したウクライナ東部はロシア系住民が住む地域なので、ウクライナ系住民が住む西部や中央部で起きるであろう激しい抵抗はないと言えると思います。

だから、「征服しようとしない」というミアシャイマーの発言を「ウクライナ人から激しい抵抗に合うような征服はしようとしない」と解釈すれば、予測が外れたということにはならないということになります。

また、2015年の講演で、(軍事衝突の結果)「ドニプロ川を挟んでアメリカ側とロシア側がにらみ合う」と発言していることも、「東部の征服もしようとしないとは言っていない」ということの証明にもなると思います。

なお、2014年9月にForeign Affairsにミアシャイマーが発表した論文で、「ロシアには、東部を簡単に併合する力はない」という発言もしていますが、「絶対に東部を征服しない」とは言っていません(※東部併合もありうるという含みが持たされている)
このようなことで、「予測を外したとは思わない」という発言になるのでしょう。

②に関しては、開戦後の状況(予想以上のウクライナ軍の強さなど)を鑑みて、プーチンは、リスクも承知の上で、(東部)併合をせざるを得なくなったということを言いたいのではないかと思います。

キエフはウクライナ系住民が住む赤色の地域にある。

ただし、12月に行われたインタヴューでミアシャイマーは、「キエフ州の東側もロシアは占領する予定」と発言しています。もし、そうなった場合は、ウクライナ人が多く住む地域も征服することになるので、①の発言の主旨から考えると、(全土を征服しようとしたという訳ではないので)予測を外したとまでは言えませんが、ミアシャイマーの予想外のことになるとは言えるでしょう。

また別のインタヴューで「今後、ウクライナで民族大移動が始まる」という発言をしているので、キエフを征服後は、そこにいるウクライナ系住民を西側に追い出すことによって、征服の弊害を回避できるということなのかもしれません。

ここで一つ言っておきたいことは、ミアシャイマーが以前から「予測を外すことはこれまで何度もあった。もしそうなった場合は、何を間違えたのか考える」と発言しているということです。
国際政治学は完成された学問でありません。1979年にウォルツが「国際政治の理論」を発表してから、初めて社会科学の域に入ったと言われているのが国際政治学という学問です。



だから、ミアシャイマーが予測を外したからといって、それがイコール、ミアシャイマーの発言には信憑性がないという評価にはならないでしょう。

予測を外したことではなく、重要な事柄について予測を的中させたことの方が重要だということです。

その点、ミアシャイマーは、中国の台頭やウクライナ戦争の発生について予測を当てているので、その発言の信憑性について高い評価を与えても良いのではないかと思います。


※ミアシャイマーのインタヴューや講演の再生リストはこちら↓