イスラエルの作戦は大失敗(ミアシャイマー)

・ソース
2023.12.21のミアシャイマーのインタヴュー

ミアシャイマーはイスラエルのハマス掃討作戦が失敗していると発言していました。
その理由として次のことを理由に挙げています。

・イスラエル兵の死傷者が数千人になっている可能性がある
ただし、情報統制があって情報が出てこないのであくまで推測(間違っている可能性はある)
テレグラムでハマスが公開している戦闘の様子もその根拠の一つ

・わずかな数のハマスの戦闘員しか殺せていない
これまでのパレスチナ側の死者は2万人だが、70%は女性と子供なので、男性は6000人になるが、そのうち、ハマスの戦闘員は多く見積もっても2000人。それに対して、ハマスの戦闘員は3~4万人。

・イスラエルはガザの40%を支配
まだハマスが60%を支配下に置いていることになる。

・仮にハマスを殲滅できたとしても、ハマスと同様の組織がまた出てくる

また、「イスラエルは、ハマス掃討作戦だけでなく、ガザの住民全体に懲罰を与えることも目的にしている。」という発言もしていました。

しかし、イスラエルは、こうした行動によって、国際的な評判を落とすことになるだろうとのことです。


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プーチンが停戦に応じない理由(ミアシャイマー)

停戦ちらつかせ軍事支援の意欲そぐ狙いか…プーチン大統領の構想、アメリカに伝達と報道

・ソース
2023.12/21のミアシャイマーのインタヴュー

ミアシャイマーは、「併合した東部4州に加えて、更に領土を獲得するまで(4州を併合するまで)、停戦に応じない」と発言しています。
その理由として、下記の点を挙げていました。

・ウクライナ側が、停戦を「体勢を立て直すための時間」として利用する可能性がある。

・ミンクス合意を西側が守られなかったことなどにより、プーチンの西側に対する不信感が根強い。
プーチンは、これまで西側をあまりにも信用しすぎたことを後悔しているそうです。

・戦場で、現在ロシアが優勢で主導権を握っているので、今停戦する理由がない。

※ミンクス合意に関するロシア側の言い分はこちら↓
https://sputniknews.jp/20221210/14185124.html


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なぜ、国際政治を論じる言論人に、これほどまで陰謀論者が多いのか?(その理由を構造的な視点から解き明かします)

国際政治を論じる言論人には陰謀論者が多くいます。
今回は、この理由を構造的な視点から考えてみます。

このことを考える場合、「陰謀論を否定する言論人」というものを想定して、対比させてみると分かりやすいです。
「陰謀論を否定する言論人」を言い換えると、「国際政治学に基づいて、国際政治を論じる言論人」になります。
なぜそうなるのかというと、国際政治学には、国際政治に関する世界で最もレベルの高い研究が蓄積されているので、国際政治を理解する手段として最も信頼性が高いからです。
国際政治を分析する手段としてこれ以上のものはないということです
それは、生物のことを理解したい場合は、生物学から知見を得ることや、機械について理解した場合は、機械工学の知識を利用するのと同じです。

しかし、「国際政治学に基づいて、国際政治を論じる言論人」というものを商品価値という観点からみた場合、「言論人」としては価値がないものになってしまうのです。
なぜなら、言論人の商品価値は、独自(オリジナル)の主張をすることにあるからです。
「国際政治学に基づいて、国際政治を論じる言論人」というのは、「国際政治学に基づいて、国際政治を解説する人」になるので、その道のプロである国際政治学者から直接話を聞いた方がよいということになるのです。
言い換えると、「国際政治学に基づいて、国際政治を論じる言論人」は、オリジナリティーがないだけでなく、その知識レベルが国際政治学者よりも劣るので、商品価値がないということです。

だから、言論人が国際政治を論じる場合、言論人としての商品価値を持ちたいと思うなら(言論人という商売を続けたいならば)、国際政治について、独自の主張をする必要があるということになります。
つまり、国際政治学者とは違う主張をする必要があるということです。
国際政治学者と同じ主張をしていれば、「国際政治学者に直接話を聞いた方がいい」ということになるので、言論人という商売は成立しないからです。
だからといって、言論人は、国際政治学者ではないので、国際政治学の理論に基づいて、オリジナルの国際政治分析をする能力や国際政治学者より優れた分析をする能力はありません。
そのようなことをしようとすれば、国際政治学者ではないので、国際政治学者から間違いを指摘されたりするなどして、ボロが出て言論人としての信用は得られなくなり、言論人の商売ができなくなります。

しかし、国際政治を論じる言論人として生き残れる(おそらく唯一の)方法があります。
それは、陰謀論に基づいて、国際政治を分析してみせることです。

なぜ、生き残れるのかというと、陰謀論は、国際政治学とは別の領域にあるので(=小説と同じようなものなので)、国際政治学者から批判されることもないし、同時に、国際政治学とは全く異なる理論なので、独自色を出すことができるからです。
もし国際政治学者から批判されたとしても、「国際政治学は間違っている」と主張すれば、支持者を失うことはありません。

つまり、陰謀論で国際政治を論じると、専門家から批判されない(=相手にされない)ので、信用が落ちることもないし、オリジナルの言説になるので、言論人としての商品価値を作れるのです。
このように考えると、なぜ国際政治を論じる言論人に、陰謀論者が多いのかの説明がつくのではないでしょうか?
彼らが陰謀論をやめると、言論人としての商品価値を失い失職してしまうのです。

だからこそ、彼らの多くは、「国際政治学者は嘘を付いている」とか、「Foreign AffairesやForeign Policyは嘘ばかり書いている」などと発言しているのでしょう。
そのようなことを言っていれば、「自分たちは、国際政治学とは全く違う次元で国際政治を考えている」ということになるので、オリジナリティーを確保でき、言論人としての商売を続けることができるのです。

商売のために、意図的に陰謀論者になっている言論人もいるでしょうし、また、本気で陰謀論を信じ込んでいる言論人もいるでしょうし、言論人として失職してしまうことを無意識に恐れて、陰謀論を主張している言論人もいるでしょう。
しかし、構造的に見れば、国際政治を論じる言論人であり続けるためには、陰謀論者になる以外の方法はないということは明らかなのです。

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ミアシャイマーが、以前から「プーチン(ロシア)はウクライナを征服しようとはしない」と言っていたことは、予測を外したことになるのか?

ミアシャイマーは、2014年から、「ソ連やアメリカがアフガニスタンでの戦争に失敗したり、イスラエルがレバノン侵攻で失敗したり、アメリカがイラク戦争で失敗したことを考えれば、ゲリラ戦などで泥沼に引きずり込まれる可能性のあるウクライナ征服を、頭の良いプーチンがするはずがない」という趣旨の発言していました。

しかし、ウクライナ戦争で、ロシアはウクライナ東部4州を併合したので、ミアシャイマーの予測は外れたという批判が一部でされています。
今回は、このことについて書きたいと思います。

2023年の11月に行われた講演後の質疑応答の中で、このことについて問われたミアシャイマーは次のような回答をしていました。

11月の講演後の質疑応答の動画

ミアシャイマーの回答の要点は、下記のようになります。

①「ウクライナを征服しようとしない」という発言の主旨は、「”ウクライナ全土”を征服しようとはしない」ということである。

②侵攻前とその一か月後に始まった停戦交渉が決裂する前までは、プーチンはウクライナの中立国化を目指していたのであり、ウクライナ征服を目指していなかった。

③それゆえに、予測を外したとは思わない。


この発言の意味について考えてみたいと思います。

2015年にシカゴ大学で行われたミアシャイマーの講演より引用。すでに併合した4州と、これから併合するつもりであると言われているその左隣の4州はロシア系住民が住んでいる地域であることが分かる。 キエフの東側半分を征服する場合は、赤色のウクライナ系住民が住む地域を征服しなければならない。

①に関しては、「征服しようとしない」という意味は、「ウクライナ人の激しい抵抗に合うようなことはしない」ということを言いたかったということです。そして、併合したウクライナ東部はロシア系住民が住む地域なので、ウクライナ系住民が住む西部や中央部で起きるであろう激しい抵抗はないと言えると思います。

だから、「征服しようとしない」というミアシャイマーの発言を「ウクライナ人から激しい抵抗に合うような征服はしようとしない」と解釈すれば、予測が外れたということにはならないということになります。

また、2015年の講演で、(軍事衝突の結果)「ドニプロ川を挟んでアメリカ側とロシア側がにらみ合う」と発言していることも、「東部の征服もしようとしないとは言っていない」ということの証明にもなると思います。

なお、2014年9月にForeign Affairsにミアシャイマーが発表した論文で、「ロシアには、東部を簡単に併合する力はない」という発言もしていますが、「絶対に東部を征服しない」とは言っていません(※東部併合もありうるという含みが持たされている)
このようなことで、「予測を外したとは思わない」という発言になるのでしょう。

②に関しては、開戦後の状況(予想以上のウクライナ軍の強さなど)を鑑みて、プーチンは、リスクも承知の上で、(東部)併合をせざるを得なくなったということを言いたいのではないかと思います。

キエフはウクライナ系住民が住む赤色の地域にある。

ただし、12月に行われたインタヴューでミアシャイマーは、「キエフ州の東側もロシアは占領する予定」と発言しています。もし、そうなった場合は、ウクライナ人が多く住む地域も征服することになるので、①の発言の主旨から考えると、(全土を征服しようとしたという訳ではないので)予測を外したとまでは言えませんが、ミアシャイマーの予想外のことになるとは言えるでしょう。

また別のインタヴューで「今後、ウクライナで民族大移動が始まる」という発言をしているので、キエフを征服後は、そこにいるウクライナ系住民を西側に追い出すことによって、征服の弊害を回避できるということなのかもしれません。

ここで一つ言っておきたいことは、ミアシャイマーが以前から「予測を外すことはこれまで何度もあった。もしそうなった場合は、何を間違えたのか考える」と発言しているということです。
国際政治学は完成された学問でありません。1979年にウォルツが「国際政治の理論」を発表してから、初めて社会科学の域に入ったと言われているのが国際政治学という学問です。



だから、ミアシャイマーが予測を外したからといって、それがイコール、ミアシャイマーの発言には信憑性がないという評価にはならないでしょう。

予測を外したことではなく、重要な事柄について予測を的中させたことの方が重要だということです。

その点、ミアシャイマーは、中国の台頭やウクライナ戦争の発生について予測を当てているので、その発言の信憑性について高い評価を与えても良いのではないかと思います。


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