アメリカの戦略には3つの重要な要素があります。
第一はNATOの拡大です。
後ほど、詳細に説明しますが、これがこの戦略の中で最も重要です。
冷戦が終結し、クリントン政権以降、アメリカはNATOをロシアの国境に向けて東進させてきました。
ロシア側はこれは絶対に許されないと言っています。
このことについては、このあと、分かりやすく説明します。
アメリカの戦略の、2つ目の重要な要素はEUの拡大です。
EUの拡大とは、ウクライナを経済的に西側に統合することです。
「チェコやスロバキア、バルト三国を西側諸国に統合したのと同じようなことをウクライナに対しても行う」ということです。
もちろん、「NATOについても同様に、ウクライナを加盟させる」ということです。
軍事機関であるNATOと経済機関であるEUの2つはセットになっているのです。
繰り返しになりますが、この戦略の目標は「ウクライナをロシアから引き離し、西側の一員にすること」です。
アメリカの戦略の3つ目の重要な要素は、オレンジ革命を起こすことです。
オレンジ革命とは、ウクライナや他の国で民主化を促進することです。
皆さんもご存知のように、アメリカは世界中で政権を倒し、民主的に選ばれた政権を誕生させようとしています。
そして、私を含むほとんど全ての人々にとって、民主主義を推進することに反対の異を唱えるのは難しいことです。
なぜなら、私たちは皆、民主主義を愛しているからです。
しかし、もしあなたがプーチンなら、あるいは、もしあなたが北京の指導部の一員なら、米国が民主主義の促進を口にする時、それはあなたの政権を転覆させることを意味するのです。
そのことを考えれば、ロシアや中国がアメリカによる民主化促進政策を嫌がっているということを聞いても驚かないでしょう。
中国やロシアは、民主化促進政策を嫌っているのです。
中国人は「香港のデモの背後にアメリカがいる」と考えています。
北京に行って中国のエリートと話せば分かることですが、
アメリカが世界中で、特に東アジアで民主主義を推進しているということに、彼らはイラついているのです。
なぜなら、自分たちの政権がアメリカに転覆させられてしまうと考えるからです。
彼らは、自分たちが狙われていることを知っているのです。
アメリカの基本的な戦略は、世界中の政権を転覆させることです。
単に民主主義が好きだからだけではなく、「民主主義になれば、誰が選ばれても親欧米派になる」と信じているからです。
一石二鳥ということです。
アメリカの基本的な戦略は、民主主義を推進し、親米的な指導者を獲得するということです。
そして、ウクライナでもNATOの拡大とEUの拡大、そして民主主義の促進という戦略を見ることができるのです。
重要なことなので、NATOの拡大についてもう少し話をさせて下さい。
NATOの拡大は2回に分けて行われました。
一度目は、ポーランド、チェコ共和国、ハンガリーがNATOに編入された時です。
二度目は、2004年でした。
バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニア、そして、ルーマニアとブルガリアがNATOに加盟しました。
薄茶色の国がこれらの国です。
これがNATO拡大の第2段階でした。
ロシアは1990年代半ばから、NATOの拡大に断固反対していました。
しかし、第一に、彼らは弱すぎてなにもできませんでした。
第二に、実質的には、国境に隣接する国家は、NATOに加盟しませんでした。
「実質的に」と言ったのは、地図を見れば明らかなように、ラトビアとエストニアはロシアの国境に接する国であるし、リトアニアも、ポーランドとリトアニアの間にある小さな飛び地(サンクトペテルブルク)と接する国ですが、この3国は非常に小さな国家だからです。
また、「それ以上のNATO拡大はない」とロシアは考えていたので、ロシアは「それに耐えていこう」という考えでした。
しかし、その後、大きな問題が起こります。
2008年4月の有名なブカレスト・サミットで、サミットの最後に「NATOは、ウクライナとジョージアがNATOへの加盟を希望していることを歓迎する」という宣言が発表されたのです。
「我々は本日、これらの国がNATOに加盟することで合意した」という宣言が発表されたのです。
それに対して、ロシアは、「このようなことは容認できない」とはっきり言いました。
ロシアの外務副大臣は、「ジョージアとウクライナのNATO加盟は、ヨーロッパの安全保障に最も深刻な結果をもたらす大きな戦略的誤りである」と述べました。
プーチン自身も、「ジョージアとウクライナがNATOの一員になることは、ロシアにとって直接的な脅威だ」と述べています。
2008年8月に、ロシアとジョージアのあいだで戦争が起きたことを覚えていますか?
あの戦争は、ブカレストサミットで発表された宣言の結果起きたことだったのです。
ジョージア人たちは、「ロシアに歯向かってもいい」というシグナルをアメリカが送っていると考えていました。
「NATОの一員になるのだから、アメリカがジョージアをを支援するだろう」とジョージア人たちは考えていたのです。
しかし、そのようなことは起こりませんでした。
その戦争で、ロシアはジョージアを叩きのめしました。
ジョージアは、「NATОの一員になれる」と考えたために、今大変な目に遭っています。
2008年4月のサミットは非常に重要でした。
その結果、ジョージア戦争が起きたのです。
このことから考えれば、ウクライナ危機の根本的な原因も見えてきます。
つまり、NATOの拡大、EUの拡大、民主主義の促進という3つの戦略が根本的な原因であるということです。
※続き
・ウクライナ危機が起こるきっかけ
→日本語訳
この訳に基づいて製作された動画はこちらです(論文からの引用や関連写真も入れているので理解の一助になります)。
●日本語訳一覧
・本題の理解に必要な前提知識①(アメリカの核心的な戦略的利益とは?)
・本題の理解に必要な前提知識③(ウクライナとはどのような国なのか?)
・ウクライナを西側に取り込むために、米国が使っていた戦略とは?
・なぜ、ロシアは「ウクライナが西側の一員になることは、安全保障上の脅威である」と考えるのか?
・「プーチンが狂っているからウクライナ危機が起きた」という主張を論駁する
・「アメリカは善良な覇権国家なのだから、プーチンがNATO拡大を脅威だと考えるのは間違っている」という主張に反駁する
・「プーチンは以前からウクライナ征服を計画していたのであって、NATOの東方拡大がウクライナ危機を引き起こしたという話は間違い」という主張に反駁する